生命の誕生 |
クローン技術をご理解いただくにあたり、まず生命が誕生するときに持っている特徴についてご説明します。 |
◆私たち人を含む哺乳類は、両親のそれぞれから遺伝的な特徴を受け継ぎます。 |
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私たち人を含む哺乳類の子は、両親のそれぞれから何万種もの遺伝子を受け継いで生まれてきます。しかし、どちらの遺伝子を受け継ぐかは偶然に決まるため、同じ親から生まれた子同士であっても異なった遺伝的特徴を持っています。また親と子でも、持っている遺伝的特徴は異なります。
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◆クローン技術により、同じ遺伝的特徴を持つ子を人工的に生み出すことができます。 |
クローン技術により同じ親から生み出された子同士は、ほとんど同じ遺伝的特徴を持つクローンとなります。また、後述するように成熟した個体(成体)の体細胞を使ったクローンの場合には、親と子もほとんど同じ遺伝的特徴を持ちます。ただし、同じ遺伝的特徴を持った子であっても、成育環境の違いなどにより、全く同じように成長するという訳ではありません。
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●有性生殖と無性生殖●
生物の発生には、雌雄両性が関与する有性生殖によるものと、雌雄両性の関与がない無性生殖によるものがあります。有性生殖には雌の未受精卵と雄の精子による受精
の段階がありますが、無性生殖には受精の段階はありません。人を含む哺乳類は、有 性生殖により子孫を残します。一方、単細胞生物等は、無性生殖のひとつの形である
細胞分裂により、個体を増殖して子孫を残します。
有性生殖では、雌の未受精卵と雄の精子が受精して受精卵を形成します。未受精卵 と精子にはそれぞれ親の遺伝子が等分に含まれるため、受精卵は両方の遺伝子を受け
継ぎます。しかし、受け継ぐ遺伝子の決定には偶然性があるため、全く同じ遺伝子を 持つ個体が複数発生することはありません(一卵性双生児を除く)。この遺伝子の受け継ぎによって、個体が持つ遺伝子は多様化し、環境変化に適応した生物を生み出す要因のひとつになっています。
無性生殖には受精の段階がないため、新しく産生される個体は親と全く同じ遺伝子 を持ちます。そのため、同じ親から産生される個体同士も全く同じ遺伝子を持ちます
が、後天的に獲得する性質は一般的に異なります。 |
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●クローン●
クローンとは、「遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)」を指し、体細胞クローンは無性生殖により発生します。無性生殖では同じ遺伝子が受け継がれるため、有性生殖の場合のように偶然の組み合わせによる多様性はなく、同じ親から産生された個体同士はすべて同じ遺伝子を持つクローンとなります。 |
●クローン羊「ドリー」
1 9 9 6年7月、イギリスのロスリン研究所で、
雌羊の体細胞を使ったクローン羊「ドリー」が誕生
しました。「ドリー」は成体の体細胞を用いて生ま
れた哺乳類で初めてのクローンであり、細胞を提供
した羊とほとんど同一の遺伝子を持っていることか
ら世界中の注目を集めました。
その後「ドリー」は妊娠し、1 9 9 8年4月に子羊
「ボニー」を出産しました。これ
によって、ク
ローン羊も他の羊と同様に生殖能力を持つことが証
明されました。 |
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●クローン牛「のと」「かが」
1 9 9 8年7月、近畿大学農学部が石川県畜産総合センターの協力により、牛の成体の体細胞を用いたクローン牛「のと」と「かが」の誕生に成功しました。これまでも、受精後発生初期の細胞を使ったクローン牛の例はありましたが、成体の体細胞を使ったクローン牛の例は世界で初めてです。
親と同じ遺伝子を持つクローン牛が誕生したことから、肉質の良い牛や乳量の多い牛を大量生産できる可能性が出てきました。 |
●クローンマウス
1 9 9 7年1 0月、アメリカのハワイ大学の研究チームは、マウスの成体の体細胞を使ってクローンマウスを作ることに世界で初めて成功しました。 |
●クローン羊「ポリー」
1 9 9 7年7月、イギリスのロスリン研究所で、羊の胎児の細胞を使ったクローン羊「ポリー」が誕生しました。「ポリー」はクローン技術と遺伝子組換え技術を使って成功した初めての例で、使用した細胞には人の遺伝子が組み込まれています。「ポリー」に組み込まれている人の遺伝子は血友病の治療に必要なたんぱく質を合成する遺伝子であり、将来、このたんぱく質を乳に分泌させ、治療薬として利用できるようになる可能性が出てきました。
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クローン技術の規制の現状 |
各国ではクローン技術に対してどのような対応を行っているのでしょうか。 |
◆クローン技術の規制に関する検討が各国で進められています。 |
クローン技術を使うことによって、今まで不可能とされていた様々なことが可能になるかもしれません。一方、これまで見てきたように、クローン技術は今までなかった問題を提起する可能性もあります。
このように、クローン技術の応用は利点だけでなく問題点も含むと考えられていることから、世界各国でクローン技術の規制に関する検討が進められています。 |
◆日本でもクローン技術の規制に関する検討が進められています。 |
日本でも、科学技術会議(内閣総理大臣の諮問機関)、学術審議会(文部省)、厚生科学審議会(厚生省)などが、クローン技術の規制のあり方について検討を行っています。 |
●クローン技術に対する各国、各国際機関の対応状況●
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成体の体細胞を使ったクローン羊の誕生をきっかけとして、クローン技術の人への適用について各国で議論されるようになりました。
イギリス、ドイツ、フランスなどでは、従来から生殖医療・医学関連の国内法を制定し、人の胚の取り扱いに関する規制を行ってきました。これらの国内法はクローン技術に焦点を当てたものではありませんが、クローン技術の人への適用は禁止することを定めています。
世界的にみて、クローン技術の人への適用は禁止される方向にありますが、現在のところ世界的に統一された基準は示されていません。また、人以外の動物に対するクローン技術の応用は容認される方向にあります。
ここでは、クローン技術の人への適用に関する各国、各国際機関の規制とその概要の一部をご紹介します。 |
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